植物状態になった91歳の親に、胃ろうやカテーテル点滴などの延命治療をするべきか?自然に任せて看取るべきか?ある実際例のご紹介。
私の母親は、私が22歳で1985年に企業に就職して企業独身寮に入居して以来、藤沢にある実家で40年ほど独り暮らしを続けておりました。80歳代後半になった5年ほど前から認知症が酷くなり、周辺の関係者に迷惑を掛けるほどになったので、2020年に実家近く、辻堂駅近くのサ高住に入居してもらいました。
何故、息子である兄や次男の私が、認知症の母親を共に東京都内にある自分達の家に招き入れなかったのかと言うと、私共のような介護の素人がそれをやると、兄共や私共の生活が確実に破綻したからです。
母親が実家を出て入居した施設は、サ高住とはいっても実際の入居者は認知症の老人100%で、要するに認知症の老人を集めて介護専門の方々に食事・入浴・シモ(使い捨てオムツを含む)のお世話をして頂く施設です。入居者は、施設から外へは一歩も出られないのが通例です。しかし心配は無用で、認知症になった老人は警戒心が強いので、施設の外に関心を持つことは無く、6畳の個室でTVを見続けて、毎日を過ごしている様子でした。
母親は実家で独り暮らしをしていた時は、実家をゴミ屋敷にしたり、実家キッチンで火災を起こしかけたり、近隣の他人の住宅に無断で侵入して警察を呼ばれたり、電車踏切の中で座り込んで助けられたり、近隣の商店街でツケで強引に買い物をしたり、歯科医で治療を受けた挙句に医療費の支払いを拒否したり、様々な問題を起こしていました。
実家に独りで居住している間に、母親は上述のような認知症に伴うトラブルを多数起こしていたので、2020年からサ高住施設に入居した後、本人もサ高住施設が実家よりも住みやすいと言っておりました。サ高住に入居後すぐに、サ高住の居住費を賄うために藤沢の実家は売却しました。
実家は母親の名義資産だったので、母親に資産状況を説明して実家売却が不可避であることを納得して貰ったのですが、実家売却の後も、母親は度々「実家の管理はどうなっているの?」と私に質問していました。既に実家は売却して現金化していた訳ですが、90歳近くになって認知症も進んでいたので、説明しても理解出来ない知能レベルになっていたのだと思います。
母親は2023/3月末に脳内出血で倒れたのですが、倒れる一週間前に偶然、私は母親を辻堂駅近くのサ高住施設に訪問して、母親が好きなチョコレートのおやつを手渡しました。その時、母親は椅子へ座ることも立ち歩くことも極めてゆっくりな程に衰えた身体で、既に私を兄と勘違いしており、ほぼ会話が成立しない程度に認知症は進行しておりました。母親は91歳でした。
私の最後の訪問の数日後、母親は2023/3月末に脳内出血で倒れて緊急病院に運ばれました。
緊急病院への入院当初および容体の経過観察をした後、医師と私のやり取りは以下の通り。
1)医師:脳内の出血は徐々に体に吸収されていくので、影響は徐々に収まる可能性がある。今後リハビリをしていけば、倒れた以前の状態に戻る可能性もある。
2)私:そもそも母親は91歳で認知症で、身体機能も極めて脆弱になっていた。これは加齢によるもの。従って、若い健常者を前提としたリハビリ云々に取り組める可能性はゼロではないか?抑々、脳内出血の後、元々認知症だった母親の脳の機能が健常になる可能性はゼロではないか?
3)医師:確かに年齢と認知症を勘案すると、身体機能も脳の機能も、元通りになる可能性は極めて低い。植物状態になる可能性は高いと言える。
4)医師:緊急病院への入院期間中(結局2週間だった)は、静脈点滴で栄養を与えている。静脈点滴は血管に負担が掛かるので止めたい。
当院は緊急病院なので、緊急対応から2週間が経過した後、今後は介護病院(いわゆる寝たきり老人病院)やサ高住に転院して頂くが、栄養を与える方法をどうするのか?
脳内出血によって口腔内が麻痺しており、口腔からの栄養摂取は不可能。
栄養を供給するため、胃ろうかカテーテル点滴の設営を了解して頂きたい。
5)私:拒否する。胃ろう若しくはカテーテル点滴の設営を拒否する。
既にやり取りした通り、今後の母親は、身体は倒れる前の状態よりも自由が利かなくなることが確実であり、脳の機能も好転は望めない。要するに、今後は早かれ遅かれ植物状態になっていくことが確実。
そんな予想にも拘わらず胃ろうやカテーテル点滴の設営をしたら、植物状態のままで母親が延々と生き続ける筋道が出来上がってしまう。
既に植物状態になるのが確実なのであれば、安らかに死を迎える対応(=尊厳死)をしたい。
6)医師:毎日沢山の患者さんが、植物状態になった後に長く生きて、結局は亡くなっているのを見ている自分としては、貴方の言うことも正しいと思う。了解しました。段々と体が弱って亡くなる道(=尊厳死)を選びましょう。
さて、母親の容態を見ながら、尊厳死の方針を決めた私と医師のやり取りは上述1)~6)の通りなのですが、実際に退院してサ高住に再入居した母親は、既に100%植物状態に近い寝たきり老人でした。
これらを振り返って金銭的・社会的に見ると、以下の通り整理出来ます。
①金銭的:国民健康保険
植物状態になった高齢者を介護病院で世話するための医療費は総額40万円/月。個人負担は10%なので、国民健康保険の負担は36万円/月(実際額)。
②金銭的:年金
植物状態になった後も母親は年金を受け取り続ける。母親の年金額は11万円/月。植物状態の老人に国民年金11万円/月を支給し続ける(実際額)。
③社会的:関係者の心労
母親が植物状態で生き続けると、介護して下さる医療関係者、および兄と私には心理的に大きな重荷となる。一方、当事者である母親は植物状態なので、なんら意識が無い。
金銭的に見て、植物状態の高齢者に関わる日本社会の負担金額は、①国民健康保険②国民年金の積算36+11ですから、毎月47万円/月です。
然しながら、既に意識のないままで生き続ける植物状態の高齢者のために、日本社会(=国民健康保険制度と国民年金制度)が毎月延々とこの過大な費用を負担することに意味はないと思います。関係者のモラルは低下必至ですし、社会進歩に足枷するものと思います。
③については、植物状態の親族や知り合いを持つことに歓びを感じる人達も居るでしょうが、それは異様な価値観です。カビが生えたような儒教的抑圧の犠牲者をこれ以上増やすのは止めた方が良いと思います。
以上の通り、現場の当事者の判断は1)~6)、現場を離れた第三者の判断は①~③だと思います。
両方合わせて、植物状態になった高齢者を延々と医療施設で介護し続けることには社会的正当性が無いと思いと私は思いますが、皆様は如何お考えでしょうか。
追記:ボケ老人(=金銭管理やシモの世話が自分で出来なくなった方)、および植物状態の老人のケアを何処にすべきかについて。
1.ボケ老人(=金銭管理やシモの世話が自分で出来なくなった方)のケアは、サ高住に任せるべきです。何故なら、これらの方々は病気ではありません。加齢による退行現象ですから、回復の可能性もありません。生活場所を自宅にするか、或いは施設にするかと言うだけの問題です。
故に、「必要経費を本人が負担する場所」としてサ高住を選択して、そこでケアをして頂くのが自然な流れです。
都内サ高住の毎月費用は高い(20万円台/月)ので、今まで都内に住んでいた方でも、サ高住にお世話になる段階になったら首都圏を離れる必要があります(千葉・神奈川の郊外なら費用は10万円台/月)。
お金を節約するために首都圏を離れるのは当たり前です。何事も、自然のエネルギー法則(高い所から低い所に流れる)に逆らわないようにすべしと思います。
このボケ老人のケアを「寝たきり病院」に任せるのは国民健康保険の無駄使いですし、3か月毎に病院側から転院を迫られることになります(何も医療行為をしていないので、当然です)。病院側としても、健保を含めた毎月の収入が30万円を下回ると赤字になる筈です。
繰り返しになりますが、ボケ老人(=金銭管理やシモの世話が自分で出来なくなった方)をかかえる親族の方は無理なことをしないで、非医療機関(=コストが安い)であるサ高住でケアして頂く途を選択すべしと思います。
2.植物状態の老人のケアは、現在の日本では寝たきり病院が担っています。
しかしながら、胃ろうやカテーテル点滴などの延命治療をしている植物状態の老人は、病人ではありません。回復の可能性がありません。
今後、寝たきり病院での老人ケア機能は、非医療機関に移管すべきだと思います。移管に伴って金銭負担額は増しますが、仕方がありません。現状の植物状態の老人のケアは、国民健康保険へのただ乗りです。
これら事実を冷静に受け止めて、植物状態になる段階で親族は判断すべしと思います。
今後の対策として上述の通り、先ず植物状態の老人を生み出さないこと、次に植物状態の老人のケアは非医療機関に移管すべきであること、の2つが必要と思います。
2023/10/13